今月の海の生き物

アカバギンナンソウ Mazzaella japonica

うみひるもNo.114より_アカバギンナンソウ

うみひるもNo.114より_アカバギンナンソウ

うみひるも No.114 (2013.02.16発行)より

紅藻類スギノリ目スギノリ科アカバギンナンソウ属の一種で、北海道と本州太平洋岸北部など
親潮の影響のある海域に分布する寒海性の海藻。潮間帯から出現し、浅海の岩礁上に生育する。「仏の耳」「アカハタ」などの名前で呼ばれ、味噌汁の具や酢の物として食用にされる。冬期に採集が盛んに行われる。乾燥品として出荷されるが、地元では生のまま食膳に上ることもある。北海道厚岸漁組の記録では、年に25tも出荷されたことがあるが、今では数百kg程度で記録もない。かつては、糊料として壁や漆喰に利用されていた。八戸では、蒸して杵でつき寒風にさらして固めて「あかはたもち」として食する。葉状部は単葉もしくは幅広く分岐する。葉の大きさは10~25cm程度。赤褐色から黄緑色をして、近縁のクロハギンナンソウとは、色で区別される。枯れると黄色から白色に褪色する。葉状部は全体にゆるく波打ち、半球状の嚢果(のうか)のいぼいぼ突起が散在する。

(北海道厚岸湾にて 向井 宏撮影)

 

アダン Pandanus odoratissimus

うみひるもNo.107より_アダン

うみひるもNo.107より_アダン

うみひるも No.107 (2012.10.16発行)より

阿檀。南西諸島から東南アジアまでの熱帯・亜熱帯地方の海岸に生育するタコノキ科の植物で、高さ5-6mに達する。マングローブ林の中にも混生することがあるが、マングローブ種よりは、やや陸側に生育し、海からかなり離れた陸上でも見られる。生長するにつれて太い枝が横に出て、そこから太い気根が蛸の足のように周りの地面に根を下ろすことから、一般にタコノキの名前で知られている。葉は長く1mを超えることもしばしばある。両側の葉縁と主脈上には鋭い棘を並べる。葉は、強靱で、編んで小屋の壁や屋根、敷物など利用範囲は広い。芽の時期の葉は柔らかく、沖縄では食用とする。雌雄異株で、夏に雌雄それぞれの花を付ける。果実は写真のようにパイナップル状となり、枝からぶら下がる。熟すと赤朱色になり、甘い。かつては実も食用にされたが、現在では見向きもされない。また、この実のデンプンを利用してサンダンスー(味噌の油炒め)を作る習慣があったが、今では見られない。ヤシガニがアダンの果実を好物として、しばしば夜間にアダンの樹上に上っているのを観察することができる。現在では、沖縄県の砂浜海岸の上部に海岸林を形成する主要な樹種となっている。

(沖縄県石垣市にて 向井 宏撮影)

 

押し花作品 アナメ Agarum clathratum

うみひるもNo.100より_アナメ_押し花

うみひるもNo.100より_アナメ_押し花

うみひるも No.100 (2012.06.16発行)より

褐藻類で、葉状部に大小さまざまな穴が開いて、まるでレースのようになっているのが著しい特徴である。コンブ科に属するとされたが、最近(2006)、アナメ属とスジメ属をスジメ科としてコンブ科から独立させた。アナメ属には 5 種があるが、そのほとんどが東北地方以北の寒い海に生育し、北海道では各地に生育している。水深十数mと、コンブ類の中では、やや深い海底に生えているので、海岸からは発見するのが難しいが、しばしば海岸に打ち上げられているのを見ることができる。葉状部表面には粘液を分泌しないので、他の海藻類のように乾燥させても台紙にくっつかない。写真は、小型のアナメを用いて押し花アートに仕上げたものである。海藻類は、その形や色が美しく、造形的にも素晴らしいものが多く、海藻おしばや押し花としてもよく使われる。

(作品 向井 保子)

 

イソギク Chrysanthemum pacificum

うみひるもNo.122より_イソギク

うみひるもNo.122より_イソギク

うみひるも No.122 (2013.07.01発行)より

双子葉植物のキク目キク科キク属に属する種で、主に房総半島・伊豆半島や紀伊半島など暖かな本州南岸の海岸の岩場に生育する。別名イワギク。四国には別種のシオギクが分布する。紀伊半島には、両種の中間型のキイシオギクが分布している。イソギクは栽培品種も多い。多年草で、冬でも葉を持っている。秋になると黄色の小さな頭状花を散房状に塊になって咲かせる(写真)。花は筒状花のみからなり、花弁はない。葉は緑色であるが、葉の裏は白毛を密生させ、古い葉になると表面から葉の周囲に葉裏の白毛が見えるため、葉の縁が白く縁取られているように見える。草丈は30~40cmとなり、茎は堅固。

(和歌山県白浜にて 向井 宏撮影)

 

イソスギナ Halicoryne wrightii

うみひるもNo.108_イソスギナ

うみひるもNo.108_イソスギナ

うみひるも No.108 (2012.11.01発行)より

磯杉菜。緑藻類のカサノリ目、カサノリ科に属する亜熱帯性の海藻。本州・九州の南部太平洋岸から南西、フィリピン、インドネシアなど東南アジアにかけて、潮間帯やタイドプールのような浅い海底のサンゴ塊などの上に生育する。円柱状の軸に棘状の小枝が多数輪生し、幾重にも重なった棍棒状で、下部は軸だけになる。この姿をスギナに見立てて、イソスギナの名前がある。緑藻であるが、石灰質を沈着させるため、やや白っぽい。多数がこんもりと密生し、大きな群落になる。

(沖縄県名護市嘉陽にて 向井 宏撮影)

 

イタボガキ Ostrea denselamellosa

うみひるもNo.116より_イタボガキ

うみひるもNo.116より_イタボガキ

うみひるも No.116 (2013.04.01発行)より

軟体動物門斧足(二枚貝)綱イタボガキ科の二枚貝。房総半島以南の本州・四国・九州に分布する。
岩礁に片側の殻を付着して海水中の懸濁有機物やプランクトンを濾過して食べる。大きさは直径約10~12cmくらいの円形に近い形をしている。外側の殻の表面には、成長脈が檜皮葺(ひわだぶき)のように重なっているのが特徴である。殻表は淡褐色~黒色を呈する。同じイタボガキ科のマガキなどの貝類と異なり、本種は卵を放出せず、体内に精子を取り込んで受精し、卵が発達してベリジャー幼生になるまで体内に保護する卵胎生である。
かつては各地の岩礁で普通に見られたが、最近では海洋汚染などの影響で減少し、極めて稀な存在になってしまった。日本ベントス学会が出版した「干潟の絶滅危惧動物図鑑」では、絶滅危惧1B種となっている。現在では七尾湾、瀬戸内海、有明海以外では消滅したといわれる。

(淡路島阿万にて 向井 宏撮影)

 

ウズラタマキビ Littoraria scabra

うみひるもNo.123より_ウズラタマキビ

うみひるもNo.123より_ウズラタマキビ

うみひるも No.123 (2013.07.16発行)より

軟体動物腹足綱タマキビ科に属する巻貝の一種。円錐形で螺塔が高く、殻の周縁が角張っているのが特徴。殻の表面にはうずら模様をあしらい、螺肋は強いが、上部は平滑になる。殻長は約2~3cmになり、タマキビ類では大型である。紀伊半島以南の熱帯・亜熱帯の太平洋沿岸に広く分布する。マングローブの枝や葉、気根など、水面よりかなり上部にしばしば上っているのが見られる。海水に浸かるのを嫌うが、潮が干上がると下の方へ下りてきて、マングローブの葉や茎の表面に生えている微細な藻類を食べている。マングローブに上る近似種にヒメウズラタマキビやイロタマキビがあるが、ヒメウズラタマキビはやや高いところ、イロタマキビはやや低いところに分布し、ウズラタマキビはその中間にいる。潮間帯の岩礁にも生息する。

(パラオ・コロール島にて 向井 宏撮影)

 

オオエンコウガニ Chaceon granulatus

うみひるもNo.99より_オオエンコウガニ

うみひるもNo.99より_オオエンコウガニ

うみひるも No.99 (2012.05.16発行)より

深海に生息する大型甲殻類。十脚類短尾類オオエンコウガニ科のカニ。東京湾より南の水深 100m~1000mの深い海に生息する。日本海側では生息していないと思われる。生息場所の水温は約 5℃と冷たい。深海底曳き網などで混獲されることがあるが、多くはない。味は美味で食用にもされるが、少ないため、市場に流通することはほとんどない。マルズワイガニという名前で市場に出ているのは、アメリカオオエンコウガニである。甲羅の幅は 20~25cm、脚も含めると 80~100cm にもなる。甲羅は堅くて重い。

(駿河湾にて 向井 宏撮影)

 

オニヒザラガイ Acanthopleura gemmata

うみひるもNo.105より_オニヒザラガイ

うみひるもNo.105より_オニヒザラガイ

うみひるも No.105 (2012.09.16発行)より

潮間帯に生息するヒザラガイの一種。軟体動物門多板綱新ヒザラガイ目クサズリガイ科に属する。ヒザラガイ類(多板綱)は、体の背中に8枚の殻を持っている。殻に覆われていない体の表面は、多くの棘状の突起で覆われている。オニヒザラガイは、突起が太くて大きいので、判別できる。体長は5~10cm前後になり、ヒザラガイ類では大型である。奄美大島以南のインド・太平洋の熱帯・亜熱帯の海に広く分布し、沖縄の潮間帯では、普通に見られる。本州・四国・九州では、同じような生息場所にヒザラガイが棲んでいる。干潮時は写真のように岩のくぼみなどに身を潜めて乾燥や高温に耐えているが、潮が満ちてくるとくぼみから這いだし、岩の表面に生えている微細な珪藻などの藻類を、歯舌を用いて削り取って食べる。琉球石灰岩のように柔らかな岩だと、藻類といっしょに岩の表面を削ってしまうので、写真のようなくぼみを自分で作り、そこを居場所としてしまう。満ち潮の時に居場所を離れて餌を食べていても、干潮になる前にもとの居場所に帰ってくる帰巣行動をする。写真の体の右下に見られるペレット状のものは、オニヒザラガイの糞の堆積である。

(沖縄県南城市玉城にて 向井 宏撮影)

 

キタイワフジツボ Chthamalus dalli

うみひるもNo.131より_キタイワフジツボ

うみひるもNo.131より_キタイワフジツボ

うみひるも No.131 (2014.01.01発行)より

潮間帯の上部に付着しているフジツボ類で数の多いのはイワフジツボ類である。キタイワフジツボは、北海道と東北の一部に見られ、本州のイワフジツボに似るが、やや大きい。フジツボ類は貝の仲間と思っている人が多いが、実はエビやカニなどと同じ節足動物甲殻類で、他の多くの甲殻類と同じように、プランクトン生活をするノウプリウス幼生を持つ。付着した後は、動くことはできない。それにもかかわらず、雌雄同体で交尾をして受精するため、同種個体が寄り集まる性質を持つ。北海道の海岸では、冬期の低温で潮間帯には生き物が非常に少ないが、極寒の冬を生き抜くことのできる数少ない動物の一つである。

(北海道厚岸湾にて 向井 宏撮影)

クロシタナシウミウシ Dendrodoris arborescens

うみひるもNo.124より_クロシタナシウミウシ

うみひるもNo.124より_クロシタナシウミウシ

うみひるも No.124 (2013.08.02発行)より

軟体動物腹足綱裸鰓目クロシタナシウミウシ科に属するウミウシ類の一種。黒舌無海牛。ここでいう舌というのは、歯舌と呼ばれる歯のこと。多くのウミウシ類や巻貝類は、歯舌と呼ばれる長い歯の列をもっており、それを使って岩の表面などに生育する微細藻類などを削り取って食べる。しかし、クロシタナシウミウシは、岩や海藻の表面に付着するカイメン類を吸い込むように食べるため、歯舌を使うこともなく、進化の過程で歯舌をなくしたと考えられる。体長8cmくらいまでなり、やや大型のウミウシ。体色は黒。外套の周辺と触角や外鰓の先端は、黄色から黄褐色に彩られる。温帯性のウミウシで、日本各地の浅い岩礁地帯に見られる。夜行性。かつて、クロシタナシウミウシの学名は、D. nigraとされていたが、現在では、この学名の種の和名はホンクロシタナシウミウシとされる。また、明るい黄色に黒の斑点をちらすマダラウミウシは、このクロシタナシウミウシの色彩変異に過ぎないとする研究者も多い。軟体動物の分類基準によく使われる歯舌を持たないため、分類には困難がある。

(和歌山県天神崎にて 倉谷うらら氏撮影)

 

クロフジツボ Tetraclita japonica

うみひるもNo.119より_クロフジツボ

うみひるもNo.119より_クロフジツボ

うみひるも No.119 (2012.05.16発行)より

節足動物甲殻綱。とてもエビカニ類と同類とは思えない形をしたフジツボ類は、貝の仲間と間違われることが多い。かつては動物学の専門家さえ、そう思っていた。フジツボ類は、蔓脚亜綱で、有柄目と無柄目から成る。同じところの岩に付着していても、クロフジツボは無柄目で、カメノテは有柄目に属する。クロフジツボは、本州から琉球列島までの、やや波あたりの強い外洋域から内湾入り口付近の岩礁潮間帯中部から下部にかけて群生する大型のフジツボである。殻は灰色から黒灰色で、表面に粗い縦走する隆起線がかなりはっきりしている。成長すると直径は3~4cmにもなり、潮間帯のフジツボの仲間では、大型である。近縁な種に、タイワンクロフジツボとミナミクロフジツボがあり、本種分布域の南方では、3種が同居するところもある。タイワンクロフジツボは、やや赤っぽい殻をしており、ミナミクロフジツボはやや緑色を呈することで、判別できる。殻口は、若い個体では狭いが、成長するにつれて大きく開いている。

(兵庫県南あわじ市吹上浜にて 向井 宏撮影)

 

 

ジュゴン Dugong dugon

うみひるもNo.129より_ジュゴン

うみひるもNo.129より_ジュゴン

うみひるも No.129 (2013.11.01発行)より

ジュゴンは、沖縄防衛局の調査によると、日本ではもはや3頭程度しか生息していないとされている、絶滅に瀕した海産哺乳類である。沖縄では辺野古の米軍基地建設が実行されたら、おそらく絶滅するだろうといわれている。インド・太平洋の熱帯地方にのみ生息し、オーストラリアでは多いが、東南アジアでは、餌となる海草藻場が減少し、ジュゴンも減少が著しい。しかし、バヌアツではいくつかの島でジュゴンが見られる。この写真は、ヘリコプターから撮影された写真である。

(バヌアツ共和国にて 土山裕誉氏撮影)

 

スナガニ Ocypode stimpsoni

うみひるもNo.101より_スナガニ

うみひるもNo.101より_スナガニ

うみひるもNo.101 (2012.07.01発行)より

高潮線付近の砂浜に 20~30cm以上の深さの巣穴を掘って生活するカニ。甲殻類十脚目スナガニ科に属する。東北地方以南に分布し、東アジアの熱帯・温帯域に広く見られる。夜行性で素早く動くため、近くで観察することは非常に難しい。昼間は巣穴の中で過ごす。写真のように夕方陽が落ち始めると少しずつ巣穴から出てきて、餌を探し始める。餌は砂浜にいるあらゆる生き物とその死骸である。海藻も食する。眼が縦に長く大きいのが特徴的である。潜望鏡のような眼は、巣穴にはいるときは折りたたんで、眼窩と呼ばれる凹みに格納する。甲らの幅は 15~30mm ほど。写真のスナガニは未成体のカニである。体色には変異があるが、砂浜の砂の色に近い色になると言われている。写真のように白いサンゴ砂の砂浜では、透明感のある白い色をしていることが多い。その透明感と夜行性、すばやい動きのために、英語では ghost crab(幽霊カニ)と呼ばれている。

(沖縄島本部半島にて 向井 宏撮影)
うみひるも No.102 (2012.07.16発行)より

先号の「今月の海の生き物 スナガニ」について、甲殻類の専門家である和田恵次会員から以下のようなコメントが寄せられました。先号の写真は未成体なので、スナガニとツノメガニの区別がつかず、スナガニと書いておりますが、和田会員の見解に従うと「ツノメガニ」の未成体と言うことになります。「海浜の潮上帯付近に見られるカニの巣穴の所有者は、日本本土ではスナガニが主だが、琉球列島では、ツノメガニが主体である。ツノメガニは、成体の眼柄に角状突起があることでその和名が付いているが、未成体にはこの突起がなく、他の種と見間違えることが多い。日本本土特に西南日本の沿岸に、このツノメガニの未成体が最近数多く分布するようになった。しかし、冬の低温に耐えられず、越冬することがないため、成体にまで成長する個体をみることはほとんどない。ただし、四国や九州でごくまれに角の突起をもった越冬個体が見られることがある。この写真の個体は、沖縄島の砂浜で見られたものであり、ツノメガニの未成体の可能性が大きい。このツノメガニの未成体と間違われやすいスナガニは、日本では本州、四国、九州に分布するが、琉球列島からは記録はない。」(和田恵次)

 

ソデカラッパ Calappa hepatica

うみひるもNo.120より_ソデカラッパ1

うみひるもNo.120より_ソデカラッパ1


うみひるもNo.120より_ソデカラッパ2

うみひるもNo.120より_ソデカラッパ2

うみひるも No.120 (2012.06.01発行)より

甲殻綱カラッパ科に属するカニの一種。カラッパの仲間は、巻き貝の殻を割って、貝の肉や中に棲んでいるヤドカリなどを食べる。殻を割るために鉗脚(かんきゃく)の腕節が幅広になっており、普段はそれで顔の前を覆うようにしている(下図)ため、「恥ずかしガニ」と呼ばれることがあるが、肉食のため性格はシャイではない。本種は、インド太平洋の熱帯・亜熱帯域の浅海に広く分布しており、日本では三浦半島・伊豆半島などから南に見られる。サンゴ礁海域の浅い海底では普通種である。体の表面に微細な藻類や粒子が付着していることが多く、一見すると小石のように見える。隠蔽のための適応であろう。

(沖縄県泡瀬海岸にて 有山 ゆみ氏撮影)

 

 

タケノコカニモリ Rhinoclavis vertagus

No.117_タケノコカニモリ

うみひるもNo.117より_タケノコカニモリ

うみひるも No.117 (2013.04.16発行)より

軟体動物門腹足綱オニノツノガイ科の巻貝。紀伊半島以南、南西諸島から熱帯のインド洋・太平洋に分布する種である。殻の長さは約6cm。多くのカニモリガイ類の中では珍しく表面が平滑で模様や彫刻がない。縫合(殻の巻階の接合部)の下に、不明瞭ながら縱肋がある。殻の表面は白色もしくは薄い褐色を呈する。石垣島川平湾の本種の多くは、写真のように濃い褐色を呈しているものが多かった。殻の上部で緑色をしているのは、付着緑藻の色である。浅い砂泥底に棲み、体は半ば埋もれた状態で過ごす。何を食べているかなどの生態は不明である。

(石垣島川平湾にて 向井 宏撮影)

 

トド Eumetopias jubatus

うみひるもNo.111より_トド

うみひるもNo.111より_トド

うみひるも No.111 (2013.01.01発行)より

ほ乳動物綱ネコ目(食肉目)アシカ科トド属に属する唯一の種。北海道から北の太平洋、オホーツク海、日本海に分布し、千島列島やアリューシャン列島、カムチャツカ半島などで繁殖する。北海道には冬期に千島列島の個体群が南下する。体長は2mを超える。とくに雄は雌に比べて大きい。体重は雄で平均500kgを超え、雌でも260kgほどもある。昼間は岩礁上で休息し、夜間は魚類やイカ・タコ類を食べる。夏に雄が上陸して数頭の雌とハーレムを形成する。日本では漁業に被害をもたらすとして害獣扱いをされているが、個体数は減少を続けている。国際的にはIUCNが絶滅危惧種としており、アメリカやロシアでは保護されている。環境省のレッドデータブックでは准絶滅危惧種に指定されているが、水産庁は害獣として駆除を行っており、その行為は国際的に非難されている。

(択捉島にて 北の海の動物センター)

 

ナガウニ Echinometra mathaei

うみひるもNo.125より_ナガウニ

うみひるもNo.125より_ナガウニ

うみひるも No.125 (2013.08.16発行)より

棘皮動物門ウニ綱ホンウニ目ナガウニ科に属する種。本州南部以南のインド太平洋の熱帯域に分布し、サンゴ礁のリーフの中のくぼみなどに棲んでおり、岩の表面の藻類などを岩の表面ごと鋭い歯で削り取って食べる。ホンウニ目の中では、ナガウニ科のウニ類は、殻が正円ではなく長円形をしていることが特徴である。日本にはナガウニ1種が棲んでいるとされてきたが、棘の色などに変異があり、また棲み場所などの生態的な特徴によって、4種に区別されることになった。写真のナガウニは、ホンナガウニと呼ばれる種である。その他に、ツマジロナガウニ、クロナガウニ、シロナガウニがある。食用にはならない。

(ミンダナオ島にて 久保田信氏撮影)

 

ハマギク Nipponanthemum nipponicum

うみひるもNo.113より_ハマギク

うみひるもNo.113より_ハマギク

うみひるも No.113 (2013.02.01発行)より

海岸の崖や砂浜に生育するキク科の植物。日本の固有種と言われている。本州の東海岸、青森県から関東地方までに分布する。茎が叢生して大きな株を形成する。茎は木化する。葉の表面は光沢があり、肉厚となる。花も大きく、堅固なので、江戸時代から庭で栽培され、好まれている。花は夏の終わりから秋にかけて咲く。茎の高さは50cmくらいだが、大きくなると1mにもなる場合がある。

(神奈川県三浦半島小田和湾にて 向井宏撮影)

 

ハマボッス Lysimachia mauritiana

うみひるもNo.102より_ハマボッス

うみひるもNo.102より_ハマボッス

うみひるもNo.102 (2012.07.16発行)より

高潮線よりも高い海浜植物帯に生育するサクラソウ科オカトラノオ属に属する 2 年草。日本の全土の海岸に分布し、高さ 10~40cm になる。根元から数本の株になり、上方でさらに枝分かれする。茎はやや赤みを帯びる。茎の先端に総状花序をつけ、多数の白い花を咲かせる。花びらは深く5つに裂ける。葉には毛がなく、多肉質で、表面は光沢がある。名前は、浜払子で、払子(ほっす)は、仏僧が手に持つ道具を言い、白い花の花穂をその形に見立てたと言われている。5月~6月に咲き、花が終わると球形の果実を付ける。果実は先端に小さな穴が開き、そこから小さな種子が飛散する。花の時期は南に行くほど早い。この種は、冬の海岸に見られる典型的なロゼット型植物で、春になると直立して花穂を付ける。夏には枯れる。

(沖縄島恩納村にて 向井 宏撮影)

 

ヒジキ Sargassum fusiformis

うみひるもNo.128より_ヒジキ

うみひるもNo.128より_ヒジキ

うみひるも No.128 (2013.10.16発行)より

食用の海藻で一般にも馴染みが深いが、乾燥した黒いものしか知らない人が多い。生きているヒジキも普段海岸で簡単に目にすることができるが、自分が食べているヒジキと同じものと思うことのできる人は少ないかもしれない。北海道南部から九州にかけての外洋に面した波あたりの良い岩礁の潮間帯下部に生育する。長さは100cm程度。カルシウム、鉄、マグネシウムなどの金属成分が多く、貧血、更年期障害、骨粗鬆症などに効果がある医療食品として、よく食べられている。かつては、褐藻類のヒジキ属(Hijikia)に属するとされていたが、分子系統学的な研究から、現在ではホンダワラ属(Sargassum)の一種とされている。

(兵庫県南あわじ市吹上浜にて 向井 宏撮影)

 

フタイロミノウミウシ Trinchesta futairo

うみひるもNo.103より_フタイロミノウミウシ

うみひるもNo.103より_フタイロミノウミウシ

うみひるも No.103 (2012.08.01発行)より

軟体動物裸鰓綱アオミノウミウシ科に属するミノウミウシの一種。1963年に馬場菊太郎博士が新種として記載した。浅海の海藻上に生活し、海藻の上に固着するヒドロ虫類を食べる。雌雄同体だが、交尾を行う。体長は1~2cmと小型のミノウミウシである。春から初夏にかけて、ホンダワラ類などの海藻がもっとも大きくなる時期に短期間出現する。ミノと呼ばれる部分は肝臓の機能を果たしている。また、食べたヒドロ虫類が持っていた刺胞をミノの中に溜め込み、外敵に対して防御用の刺胞として使用するという特異な防御を行う。ミノは多くの場合二色に色分けしていることが多いため、フタイロミノウミウシという名前が付けられた。派手な色のミノウミウシが多い中で、ややシンプルなミノウミウシである。日本海、瀬戸内海など北海道から九州までで見られるが、近年観察されるところが少なくなっており、今では比較的珍しい種類となっているようだ。

(広島県向島にて 佐伯保子氏撮影)

 

ヘナタリ Cerithidea cingulata

うみひるもNo.127より_ヘナタリ

うみひるもNo.127より_ヘナタリ

うみひるも No.127 (2013.10.01発行)より

軟体動物門腹足綱キバウミニナ科の一種。本州南部以南のインド太平洋の内湾河口域などの汽水域の干潟上に生息する。日本では、東京湾以西の干潟に普通に生息する巻き貝であったが、埋め立てなどによる干潟の減少と海洋汚染が原因で、各地で減少。東京湾ではほぼ絶滅した。殻長は40mm程度になる。成体になると殻口が広がり、独特の形を作る。一般に縞状の模様を持つ個体が多いが、色彩変異がある。海水が満ちていると泥の中に潜っているが、干潮になると干潟上を這い、泥表面の珪藻や有機物残渣(デトリタス)を食べる。夏に繁殖期を迎え、泥の上に紐状の卵塊を産み付ける。発生の進んだ状態で幼生が孵化するが、しばらくは浮遊幼生としてプランクトン生活をおくる。漢字で甲香と書く。ヘナタリとは、昔 練り香の材料になった巻き貝のフタをさし、この種などの貝の蓋が使われていた。写真の左下は、イボウミニナ。

(和歌山県和歌浦にて 向井 宏撮影)

マタナゴ Ditrema temmincki pacificum

うみひるもNo.104より_マタナゴ

うみひるもNo.104より_マタナゴ

うみひるも No.104 (2012.08.16発行)より

硬骨魚類のスズキ目ウミタナゴ科の魚。従来、日本のウミタナゴ類は、これまでウミタナゴDitrema temmincki temminckiの一種のみとされてきたが、2007年に、それを4種に区分して、アオタナゴ、ウミタナゴ、マタナゴ、アカタナゴとした。この写真は、マタナゴとしたが、これら4種は往々にして同所的に生息するので、写真では確実な同定は、困難である。ウミタナゴは、日本海に多く、アオタナゴは東北で優占する。マタナゴは関東以南に生息している。アカタナゴとマタナゴは似た分布を示すが、アカタナゴの体色は赤みを帯びている。全長が10cm~20cmになる。ウミタナゴ類は、浅海のアマモ場や岩礁域などに群れて生活する。胎生で有名な魚で、秋に排卵して交尾・受精し、春に親とほぼ同じ形をした幼魚を産む。産仔数は、最大でも80頭程度で、少ない場合は数頭と少産である。冬から早春にかけてのウミタナゴ釣りは、磯や堤防などからの小物釣りにとっての楽しみである。

(千葉県富津市のアマモ場にて 向井 宏撮影)

 

ミスガイ Hydatina physis

うみひるもNo.126より_ミスガイ

うみひるもNo.126より_ミスガイ

うみひるも No.126 (201.09.16発行)より

軟体動物門頭楯目ミスガイ科に属する後鰓類の一種。本州南部以南のインド太平洋の熱帯・亜熱帯の浅い海に生息する。貝殻は薄く、褐色の螺旋状の縞がある。生時は写真のように外套膜をひらひらと広げ、殻は埋没して見にくい。よくみると黒い眼点が2個ある。外套膜は褐色で、ややピンク色を帯びる。外套膜の周縁は、蛍光を呈する。「御簾貝」という名前は殻の模様に由来する。

(和歌山県天神崎にて 倉谷うらら氏撮影)

 

ミズクラゲ Aurelia aurita

うみひるもNo.118より_ミズクラゲ

うみひるもNo.118より_ミズクラゲ

うみひるも No.118 (2013.05.01発行)より

腔腸動物門鉢水母綱ミズクラゲ科に属する海産種。英語でmoon jellyと呼ぶ。本種は日本でもっとも普通に見られるクラゲで、4つの生殖巣が透けて見えるため、ヨツメクラゲとも言われる。傘の大きさは30cmほどにもなる大型のクラゲであるが、積極的に遊泳することはできないので、生活型はプランクトンである。体の95%以上が水分であり、物理的な力に弱く、簡単に体が壊れる。雌の体内で卵が成熟し、受精した後、プラヌラというゾウリムシによく似た幼生となって体外に泳ぎ出す。その後、岩や海草などに付着し、イソギンチャクに似たポリプ時代を過ごす。ポリプの大きさは数mmで、餌を食べて成長し、根のような構造物を伸ばして次々にポリプを無性的に増やしていく。その後、ポリプが長く伸びて多くの切れ目が入り、ストロビラと呼ばれる。その切れ目から体が分かれて、別々のエフィラと呼ばれる薄っぺらな幼生となって海水中を漂い、やがてそれが成長して成体となる。多数発生して、漁業の妨げとなったり、発電所などで海水の取水口をふさぎ、トラブルを起こすことも多い。

(瀬戸内海 味野湾アマモ場にて 向井 宏撮影)

 

ミドリフサアンコウ Chaunax abei

うみひるもNo.112より_ミドリフサアンコウ

うみひるもNo.112より_ミドリフサアンコウ

うみひるも No.112 (2013.01.16発行)より

房鮟鱇硬骨魚綱アンコウ目フサアンコウ科に属する海産魚種。太平洋側では、銚子以南、相模湾から鹿児島沖までの南日本の水深90mから500mまでの深い海に生息している。九州以南の東シナ海にも分布する。体は丸く、頭部が著しく大きくて、やや平べったい。体色は赤黄色から朱色で、黄色で縁取られた緑色の丸い斑点が散在する。口は大きく、上向きに開いている。第1背びれは上顎に近いところにあり、触手状に変形しており、普段は皮膚のくぼみに収納するが、時折それを頭の上で振り、小魚を餌でおびき寄せ、一呑みにする。第2背びれは、離れて体の後方にある。皮膚は厚くて、小さな棘に覆われる。腹びれは、歩行のために使われる。体長は50cmくらいにもなる。近縁種のフサアンコウは、小型で体の背面中央部に黄色の斑紋があるので、区別できる。駿河湾では、深海底曳き網にしばしばかかるが、食用にはされない。

(駿河湾にて 向井 宏撮影)

 

ムシクラゲ Stenoscyphus inabai

うみひるもNo.115より_ムシクラゲ

うみひるもNo.115より_ムシクラゲ

うみひるも No.115 (2013.03.18発行)より

刺胞動物門十文字クラゲ目アサガオクラゲ科に属するクラゲで、北海道から九州までの主としてアマモや褐藻類などの上に生息する。普通のクラゲ類がクラゲ型生活とポリプ型生活を持つのに対して、この種は、クラゲとポリプの両方の性質を同時に持つのが特徴。ポリプのように体の末端で海草などに付着するが、歩行も行う。尺取り虫のように歩く変わったクラゲの仲間だ。アマモの葉の上では写真のようにきれいな緑色をしているが、褐藻類の表面に棲むものは褐色をしている。保護色と考えられ、付着基質により体色を変化させる。まち針のような触手を傘の縁に並べる。

(香川県園ノ洲アマモ場にて 向井 宏撮影)

 

ムラサキカイメン Haliclona cinerea

うみひるもNo.121より_ムラサキカイメン

うみひるもNo.121より_ムラサキカイメン

うみひるも No.121 (2013.06.16発行)より

海綿動物尋常海綿綱ザラカイメン目カワナシカイメン科に属するカイメンの一種。世界中の海岸に分布する普通種で、日本の各地でも、潮間帯で普通に観察される。カイメン類は、最初の多細胞動物と言われており、細胞間の結合が緩く、力を加えると簡単にバラバラの細胞になってしまう。しかし、バラバラの細胞を飼育していると、すぐにもとの群体に再生する能力も持っている。細胞が集まって群体を作り、組織内に多くの小型の骨片を持っている。群体の一部に海水を取り込んだり、排出するための共通孔を持つ。体色は紫色で、幼い群体では紫色が濃いが、古く大きくなると紫はやや薄くなってくる。英語ではカイメンをスポンジspongeと称するが、古くから化粧や浴用などに使われる「スポンジ(カイメン)」は、地中海で養殖して脱色した骨片を持たないグループに属するモクヨクカイメンなどのことである。近年は、プラスチックのスポンジが普及し、天然カイメンを使うことはほとんどなくなった。

(千葉県館山市沖ノ島にて 倉谷うらら氏撮影)

 

ヨツハモガニ Pugettia quadridens quadridens

うみひるもNo.109より_ヨツハモガニ

うみひるもNo.109より_ヨツハモガニ

うみひるも No.109 (2012.11.16発行)より

節足動物甲殻綱十脚目短尾類クモガニ科に属するカニで、北海道から九州までの主としてアマモ場やガラモ場などの藻場に生息するが、100mを超える深い海底でも採集された記録がある。中国沿海州や朝鮮半島にも分布するが、やや北方の種である。甲羅の長さは約3cmになる。甲羅は縦に長い菱形の変形で、先端に長い1対の突起を持つ。雄の鉗脚は大きく平滑で毛もない。動きは緩慢で、体色もホンダワラ類によく似た色をしている。主に海藻を食べていると思われる。海藻の葉片を先端の突起や甲羅の表面にある鉤型の毛にくっつけて、海藻に偽装する習性を持つ。おそらく捕食から逃れるための隠蔽工作であろう。
写真のヨツハモガニは、海底で背中に砂をかぶっているため、輪郭がやや分かりづらい。

(千葉県富津沖アマモ場にて 向井 宏撮影)

 

リュウキュウノウサンゴ Platygyra ryukyuensis

うみひるもNo.130より_リュウキュウノウサンゴ

うみひるもNo.130より_リュウキュウノウサンゴ

うみひるも No.130 (2013.12.11発行)より

石サンゴ目キクメイシ科ノウサンゴ属の一種。奄美大島以南の熱帯・亜熱帯海域の大潮の干潮時には干上がるようなごく浅い海底にふつうに見られる。群体は淡褐色もしくは緑褐色で塊状・半球状を呈し、干上がるような浅い場所に生息する場合は、成長するにつれて上部のポリプが死亡して、周辺のポリプだけが生き残るいわゆるマイクロアトール(微小型環礁)を作るようになる。昼間はボール状に見えるが、夜になるとポリプが開いて触手を伸ばす。通常の触手のほかに、スイーパー触手という長い触手を持ち、周りの隣接するサンゴを攻撃して殺すこともある。近縁種にシナノウサンゴPlatygyra sinensis が知られるが、骨格の谷状の部分がリュウキュウノウサンゴよりもやや長い。

(沖縄県備瀬にて 西平守孝氏撮影)

ルリマダラシオマネキ Uca tetragonon

うみひるもNo.110より_ルリマダラシオマネキ

うみひるもNo.110より_ルリマダラシオマネキ

うみひるも No.110 (2012.12.01発行)より

節足動物甲殻綱十脚目短尾類スナガニ科に属するカニで、国内では八重山諸島、宮古諸島、沖縄諸島にのみ分布する。近年、奄美大島でも発見された。背中が瑠璃色で紫色の斑点をもち、鋏脚がオレンジ色をした美しいシオマネキで、雄の鋏は右が大きく、左右でその大きさが著しく異なる。雌の鋏は左右とも小さい。甲羅の幅は2~3cm。模様と色合いは個体変異が大きい。干潟の岩礁や転石帯に生息し、砂浜や泥干潟に生息する他のシオマネキ類とは少し違った所に棲む。干潮時に巣穴から出てきて、岩の表面の海藻などを食べる。警戒心が強く、人が近づくとさっと穴に引っ込む。沖縄県レッドデータブックでは準絶滅危惧種となっている。沖縄島では ヌヌウイガイとかカタチミガイと称する。

(沖縄県南城市にて 向井 宏撮影)